好きな景色
2歳の頃からほとんどずっと住み続けている地元を、私はあんまり好きじゃない。
周りになじめず、うまく行かないことだらけだった幼少時代の記憶が強すぎるからだ。
でも、好きなところもある。
夕日がとてもきれいなところだ。
ほかの場所で暮らしたこともあるけれど、どの場所もここほど美しい夕焼け空を見せてはくれなかった。
まだ家の周りが空き地だらけだったころ、二階の部屋から廊下まで夕日の光が差し込んで、白い壁はオレンジ色に染まっていた。
「見て、きれいな夕日」
母がわざわざ家族を呼んで、みんなでしばらく夕日を眺めたことを覚えている。
高校生の時には、下校時間がちょうど夕暮れ時になることが多くて、友だちと一緒に夕日を眺めながら帰った。
途切れ途切れに集まる雲の塊が、夕日をうまく縁取って、ピンクや紫の絶妙な色合いを作り出していた。
刻一刻と失われていく美しい色を眺めながら、この空をそのまま絵に写し取りたいと願ったものだった。
今でも、どこか別の場所で暮らしたいとは思っている。
だけど、その場所の夕焼けは、ここほど美しくは無いだろうとも思うのだ。