初めてのスキー

今週のお題「冬のスポーツ」

 

かれこれ20年ほど前になりますが、高校の修学旅行で初めてスキーをしました。

自他共に認める運動音痴な私は当然いやがりましたが、私ひとりの意見で行き先が覆るはずもなく、かといって学校行事をサボタージュする度胸もなく、ドナドナのような気持ちでバスに揺られていったのを覚えています。

スキー場では10人ちょっとのグループごとにインストラクターの先生がついてくれて、初心者の私たちに一通りの基本を教えてくれました。

「スキー場ではスキー板を外してはいけません」

「滑るときはスキー板をハの字にしましょう」

初心者のみのグループだからと、それはゆっくりと進めてくれていたのですが、そのなかでも運動神経の悪い私は逆の意味で頭角を現し始めました。みんなが一度でできることが、三回やってもできません。

自分の体も満足に動かせないのに、スキー板なんて付属品がついてしまったらまともに動けるはずがありません。無関係の人を巻き込みながらひたすら転んでいました。

次第にいくつかあった初心者グループの中でも私の居たグループだけ進みが遅いことが明らかになってくると、インストラクターの先生も焦り始めたのか、できない人間のことは少し目をつぶって、難しいコースへ進み始めました。

もしここで「不安なら下で待っていて良いよ」と言われたら、私は喜んで待っていたと思います。しかし何も言われずついて行った先が難しいコースなら、もう遭難しないことを願って滑るしかないではありませんか。

そのコースは、ぼこぼこと乱立する小さな雪山の間を左右に避けながら滑るコースでした。滑り初めて3日目のことでした。無理だろうなという予感はひしひしとしました。歩いて帰りたいなぁとも思いました。が、「スキー板は脱いではいけない」という掟を破ることもできません。

私は崖から突き落とされるような気持ちで滑り始めました。

案の定、ものの数秒で転びました。いや、事故を起こしました。

ハの字形を保てなくなったのスキー板はXの形になり、小さな雪山の一つに突き刺さりました。その勢いのまま私は空を飛び、誰も踏み固めていないふかふかの雪があるところまで転がっていきました。

雪まみれになって起き上がると、少し遠くに私の履いていたスキー板がXの形のまま墓標のように突き刺さっていました。後から知ったのですが、スキー板は強い力が掛かると自動的に外れるようになっているのだそうです。私のような人間のための安全装置でしょうか。ありがたいことです。

体の方はというと、幸いあまり痛くなく、生まれつき関節も柔らかい方なのでひねってもいないようでした。しかしながら今の私にはスキー板がありません。スキー板がなくてはスキー場に入ってはいけないはず。しかしスキー板を取りに行かなくてはスキー板を履けません。

どうしようかと悩んでいると、インストラクターの先生が慌てて飛んできてくれました。私が大けがでもしたのかと心配したようです。「ごめんね、大丈夫?立てる?」とかなり取り乱した様子でした。怪我もなく、ただスキー板をどうしようか悩んでいた旨を伝えると、「そのままでいいから取りに行こう」と言われました。

え、いいんですか!?

そのときの衝撃と喜びったら。その後私はスキー板を抱えて無事徒歩で下山し、残り時間はスキー講習に参加せずまったりとストーブに当たって過ごしましたとさ。

 

私みたいなのにあたって、インストラクターの先生も大変だったなぁとは思うけれども。どう頑張っても運動ができない人もいると言うことを、世間の人はもう少し知るべきだと思います。