美しい顔ばせ

今週のお題「雛祭り」

我が家には、私が生まれた年に両親が大阪の松屋町筋で買ったという雛人形がある。
お雛様とお内裏様だけのシンプルな物だけど、私はその雛人形が好きだった。
私は自分の家のひな人形しか知らなかったので、雛人形と言ったら皆同じ顔をしているのかと思っていた。
だって、お雛様もお内裏様も同じ顔をしていたし。
大きくなってから、百貨店で初めて売られている雛人形を見たとき、びっくりした。
美しい着物や豪華な小物、三人官女に五人囃子もそろった贅沢な雛人形ばかりだったが、私の好きなあの雛人形の顔では無かった。
家で見慣れたその顔が、私にとっては一番美しい雛人形だった。

後に就職したとき、その雛人形そっくりの顔をした女性に一度だけあったことがある。
他人とは思えない懐かしさからうっかり声をかけそうになったが、「うちの雛人形とそっくりで」なんて言ったら、下手したらけなされていると思われてしまうと思い、我慢した。
あの人形を作った職人さんの近くには、きっとあんな女性がいたのだろう。
穏やかで上品な表情の、美しい人だった。