セリヌンティウスの物語1
昔書きかけた小説を完成させるべく、ここに掲載してみることにしました。
「走れメロス」のメロスの親友、セリヌンティウス目線のお話です。
これも二次創作というのでしょうか。
週に一度書いて、4回くらいで完成までいけるといいですね。
燃えるような夕日が西の空を染め上げ、処刑台の塔の形をくっきりと見せつける。
「今日は四人処刑したぞ。明後日にはお前もああなるのだ。」
国王というからにはそう暇なわけもあるまいが、彼は日に何度も私のもとを訪れては、こうして呪詛をつぶやく。
「おまえも馬鹿な約束をしたものだ。殺されるために帰って来る者など居るまい。」
そうやって笑いながら、私の心が折れる様を楽しんでいる。そうでなくては困るとばかりに。
「いいえ、あいつは帰ってきます。」
だから私がこともなげにそう言えば、ひどく口惜しそうに顔をゆがめるのだ。かわいそうな人だ。この人も私と同じ、弱い人間なのだ。
かつて、まだ私が生まれ故郷の村にいたころ、私は今よりもずっと立派な人間だった。間違ったことは率先して正し、自らが傷つくことを恐れなかった。あの頃の私なら、ためらうことなく言えただろう。
「王よ、あなたは間違っている。人を疑うことは、最も恥ずべき悪徳だ。」
けれど私は言わなかった。言えなかった。王が周りの人間を次々と処刑し始めたときも、私の師匠を処刑した時でさえ。理不尽への怒りで心は燃えているのに、それを口に出すことができなかった。我が身がかわいかったからだ。
そうして初めて気づいた。私が自分の良心のままに行動することができていたのは、それを率先して実践する親友が側にいたからなのだと。メロスと私は幼いころから共にあった。同じものを見、同じことを聞いてきた。何が正しく何が悪かについては、ほとんど変わらぬ考えを持っていた。私が何かに怒りを燃やすとき、メロスもまた同じものに怒りを燃やしていた。だから気付かなかったのだ。自分が親友の陰に隠れなければ行動を起こせない臆病者だとは。
そのメロスから訪問の申し出があった時、私は受けるべきか迷った。こんな悪政はびこる町に居ながら、何故お前は何もしないのだと恫喝されそうな気がしたからだ。彼は正義の化身のような男だ。
しかし同時に、私の弱い心がささやいた。
メロスといえども、あの王に盾突くなど実際にはできはしない。命が危ういとなれば、何もできずに町から逃げ出すにきまっている。もしそうなら、セリヌンティウス、おまえは間違ってなどいないということだ。おまえが正義を実行できなかったのと同じように、メロスもまたそれができなかったのなら、この世に絶対的な正義などそもそも存在しなかったのだ。おまえはひたすらに正しくあろうとした麻疹のような子ども時代を終えたにすぎない。メロスがお前と同じく弱い人間になっていてくれれば、お前の正しさが証明される。