セリヌンティウスの物語2

週に1回。短くても1回。

 

 

 結局断る理由も見つからず、そうこうしているうちにせっかちなメロスは会いに来る日を決めていた。私は今の情けない自分を知られたくないと思いながらも、メロスが私と同じように情けなく落ちぶれてくれることを期待した。そんな弱い自分にまた苦しみのたうち、とうとうメロスがやってくる当日となった。

 友人を待っていた私のもとにやってきたのは、王の使いだった。わけもわからぬまま連れて行かれた王城で、数年ぶりにメロスと再会した。メロスは以前と変わらぬ、燃えるような目で私を見た。

セリヌンティウス。お前にしか頼めないのだ、わが友よ。」

そう言われた瞬間、私の心にも正義の火が燃え上がった。強い意志で親友を見つめ返した私の眼は、昔と変わらぬ正義に満ち溢れたものであったに違いない。何も言わずに力強く頷いた私は縄を打たれ、メロスの帰ってくるときまで囚われの身となった。そして三日の間にもしメロスが帰ってこなければ、彼の代わりに私が処刑されるのだ。

 

 王は私への面会を許可したので、代わる代わるいろんな人が私の元へやって来た。もちろん見張りもついていたのでおおっぴらに王を批判する者は居なかったが、一様に私を気の毒がり、なぜそんなことを受け入れたのかと歎いた。一方の私は気楽なもので、あの目をしたメロスが私を裏切るなどみじんも疑っていなかった。どうせ死ぬことは無いと楽観していた。一日の終わりには王も来ていろいろと言っていたが、全く私の心を揺らさなかった。

 そうして牢で二度目の夜を明かした後、私はふと気付いてしまった。私が助かると言うことは、メロスが処刑されると言うことだ。あの正義の化身のような、何物にも染まらぬ希有な男が、こんなところで命を落とすということだ。私はめまいがした。

 そんなことがあっていいものだろうか。王の悪事を止められなかったこの悪党が生き延びて、メロスのような素晴らしい男が死ぬなんて。私が死ぬならまだよい。人の悪事を我が身かわいさに見て見ぬふりした時点で、死ぬことくらい当然の報いだ。しかしあいつは正しいことをしたのだ。正しい者が罰を受けるなど、そんなことが許されて良いはずが無い。しかしあいつは来るだろう。走ってでも約束を果たそうとするだろう。ああ、何と言うことだ。